オペラ。日本語では「歌劇」と呼称されますが、元々はラテン語で「仕事」の意味。華々しい舞台の上の世界は、劇場における氷山の一角でしかありません。「オペラのウラのウラ」では、VOTメンバー・竹内の経験等も踏まえながら、客席からは見えないたくさんの「仕事」を担う裏方の世界をご紹介していきます。
第1回目となる今回は、裏方の顔ともいえる「演出家」。出演者と並んで公演チラシに名前を連ねることの多い、「裏方の顔」といえる仕事です。演劇や映画などにも必要不可欠な仕事ですが、オペラにおけるそれは少し特殊。名前はよく見るけど何をするのかわからない…。歌手のパフォーマンスにも大きく影響する「演出家」の仕事をご紹介します。
【演出家の仕事ってどんなもの?】
演出家の大きな仕事は、読んで字のごとく「演出」。音楽稽古がひととおり済んだ歌手、歌わず演技だけを担当する助演などの出演者は、「立ち稽古」と呼ばれる芝居の稽古に入ります。演出家はそれに立ち合い、思い描く世界観や人物像を出演者と共有し、調整しながら物語を作り上げていきます。ですが、これは目に見えるだけの仕事。もちろんこれだけではありません!
【演出家の仕事①もっとも大変!?な下準備】
オペラの演出家は、演劇の世界の演出家とはいくつかの点で異なります。まずは作品を理解するところから入るのがセオリー。オペラの場合、ほとんどの作品が外国語の歌詞で書かれているので、その勉強をしなければ始まりません。故事や聖書からの引用など、その国の文化もある程度知る必要があります。
また、多くの場合は原作があり、原作を台本作家がオペラ用に戯曲化し、それを作曲家が音楽作品に仕立て上げます。同じ登場人物でも、当然それぞれの解釈は異なりますし、台本作家が採用しなかった原作の設定も演出に取り入れたほうがいい場合もあります。これらを考慮するのも演出家の大事な仕事です。
【演出家の仕事②他の裏方スタッフとの打ち合わせ!】
こうして演出プランを作り上げていきますが、それだけでは舞台は出来上がりません。次の作業は、裏方とイメージの共有を行い、それを舞台上で再現する道を模索します。
舞台スタッフを統括するのは「舞台監督」と呼ばれる裏方さんです。まずは舞台監督と打ち合わせを行い、大まかなステージプランを作り上げます。舞台監督は各セクションへこれを持ち込み、作業を依頼。舞台監督については、別の機会にご紹介しますね。
立ち稽古までに舞台装置や小道具の目途をつけ、演出助手ともその内容を共有したら、準備段階はいよいよ立ち稽古へと進みます。
【演出家の仕事③立ち稽古!】
始めに書いた通り、立ち稽古では出演者とイメージや解釈を共有していきます。必ずしも楽譜のト書き通りにやるとは限らず、舞台や時代設定をあえて変更する「読み替え演出」の場合、特に丁寧にこの作業を行う必要があります。
その上で、立ち位置などを決めたり、自分の演出プランが上手くいっているかをチェックします。稽古プランの管理などは、「演出助手」という文字通り演出家の助手業務を行う人が行いますが、小さなプロダクションではこれも演出家が行う場合が多いです。我々VOTも演出助手無しで制作しています。
【演出家の仕事④劇場入り!】
劇場での舞台稽古は、大きく分けて場当たり・HP・GPがあります。場当たりは劇場入り後最初に行う作業で、実際の舞台・舞台装置・大道具を使い、出演者が出入りする袖の場所や立ち位置を細かく決めていきます。
HP(Haupt Probe)は衣装付き舞台通し稽古。問題なくGPに進められるかのチェックをします。GP(General Probe、ゲーペー)は最終の通し稽古で、すべて本番通りに進行します。
場当たりの進行は助手が行い、演出家が客席から指示とチェックをします。HP・GPも客席から確認します。演出家の席には机、卓上ライト、筆記用具、水など、薄暗い客席でも長時間に渡る作業を円滑に進るために必要なものが用意されます。隣に助手を座らせ、修正事項を口頭で伝えながら助手がそれをメモし(ダメ書き)、通し稽古後に出演者にそれを伝達(ダメ出し)していきます。
GPを終えたら、演出家の仕事はあと少し。本番前は出演者やスタッフたちとコミュニケーションを取ったりし、本番中は客席から鑑賞。複数回の公演がある場合はわずかな修正を行う場合もありますが、その場合も個人的に出演者に伝えるなどし対応します。
【演出家はめちゃくちゃ大変な仕事!】
このように、演出家にはたくさんの仕事と能力が求められます。学者のような知識量、演者にやって見せることもできる演技力、計画能力、対応力、コミュニケーション能力etc…。そして何より、自分だけの世界観。大変な仕事ですが、カーテンコールでは裏方で唯一、個人で喝采を浴びるのも演出家(他のスタッフは出ないか、チーフやプランナーのみが出ます)。本場ヨーロッパでは、敬意を込めて指揮者と同様「マエストロ」と呼ぶそうです。
オペラ公演では、出演者の歌唱力や演技力に耳と目が行きがちですが、オペラに慣れてきた方はぜひ、演出にも注目してみてください。おすすめは同じ演目を違う演出で見ること。演出家それぞれの解釈や世界観がよく分かります。オペラ公演に慣れてきた方はぜひ、演出の違いにも注目してみてください。きっと観劇がもっと楽しくなりますよ!