(時間が無さすぎるので、自分語り回です。そういうの嫌な方はブラウザバック推奨。画像も少なめです)
先日、友人の女優さんたちが出演してる舞台を観劇しまして。
ふと、彼女たちと役作りについて語り合ったことがあったのを思い出しました。
このシリーズではここまで、裏方の仕事や彼らの知識を紹介することで、舞台に別の魅力を与えられたら…という気持ちで書いてきましたが(”裏側”のプロフェッショナルある彼らはきっと不服だとは思いますが)、
今回は「歌手の裏側」にスポットを当ててみようかなと思います。
オペラ歌手代表として語るつもりは毛頭ありませんが、竹内流の「役の作り方」をどうぞご覧ください。
人前で歌うよりずっと恥ずかしい。
【オペラの役作りのキホン】
いつかどこかにも書きましたが、歌手が役を勉強し上演するまで、様々な角度から役を見つめます。
ざっと並べると、
- 台本作家が作った人物像
- 音楽から見える”作曲家が作った人物像”
- 原作者が作った人物像(原作ありの場合のみ)
- 指揮者の音楽から見える人物像
- 演出から見える”演出家が思い描く人物像”
こんな感じでしょうか。
これらを踏まえて、自分の解釈や共演者の芝居とすり合わせながら役を作っていく…というのが竹内流です。
【1.台本作家が作った人物像について。】
これをやらない人は歌手失格…とさえ思います。
外国語ならすべての言葉の意味を理解し、相手役との会話を理解し、
行間の感情を読み解き、どんな人物像かを形作っていきます。
一番重要なのは、この作業は楽譜の勉強をする前に行うこと。
楽譜の呼吸感や和声が語る人物像に左右されないために、まずは言葉から読み解いていきます。
さらに朗読までやれれば最高!
…ちなみに。
まだやったことのない役でも、自分が将来やるであろう役は順次この作業をしてます。
先にやっとくとあとで楽だもんね。一番時間と手間と根気が必要な仕事です。
【2.音楽から見える人物像について。】
1の作業を終えたら、いよいよ譜読みに取り掛かります。
譜読みとは「音を取ること」「歌いだすタイミングを覚えること」「全体を歌えるようになること」…だけではありません。
1の作業で見えた人物像や言葉の呼吸と比較し、異なる部分を洗い出し、付された音楽から作曲家が思い描いた人物を考えます。
例えばプッチーニ作曲「トスカ」の中のスポレッタという役。
悪役スカルピアの腹心で、警察の偉い人で、台本を見ると真面目で機転が利いて、以下にも優秀な官僚…といった印象を受けます。
そういうイメージをもって楽譜を見ると、スポレッタには軽やかで少しおどけたような音楽がついてます(感じ方にもよりますが)。
これらの差をあれこれしてまとめると、「真面目で機転が利いて、それでいて四角四面ではなく主人の悪だくみを利用して地位を守ろうとするしたたかな小悪党」みたいな人物像が浮かび上がってきます。
こういう作業を細かく見ていって、でも細かく決めすぎずある程度の柔軟性をもった緩めの人物像を作っておきます。
【3.原作者が作った人物像】
で、2の作り方だとどうしても理解できないようなところがよく出てきます。
つまり台本に書かれておらず、音楽で補完もされていないパーツです。
こういう時のために、竹内は必ず原作を読みます。
そう、オペラのほとんどは原作となる戯曲や小説が存在するんです。
竹内宅の原作本。絶版本は古本屋やネットの中古販売で手に入れます。
それを読み進めていくと、「オペラ化するにあたってカットされた部分」「複数の人物像が一人にまとめられている場合」「台本作家または作曲家が物語を脚色した場合」など、様々なケースが出てきます。
ここまでくれば、ほとんどの疑問や問題点は解決されます。
【あとは現場対応。】
4.5.は時と場合によって変わるので、下準備としては自分が取り組む役について①②③を徹底的に勉強することになるんですが、
これがまーーー大変。
各役用に情報をまとめたノートを作ってるんですけど、これの中身は企業秘密です。
これだけ準備しても、必ず演出家の付けるものと相容れないところが出てきます。
相容れない…は語弊があるかな。思いもよらなかった方向から人物を見てたり。演出家の皆さんはみんな竹内より物知りなので、その都度「役作りノート」がアップデートされていきます。これはすごく楽しい。次に同じ役を演じるときにめちゃくちゃ活きます。
でもごくごくたまーーーに、生理に反するというか、役作りではなく歌手心理と相容れない演出、
あるいは「読み替え」によって発生する齟齬や、そもそも役に対する自分の解釈が邪魔になる場合すらあります。
そういう時の答えを、自分なりの向き合い方を掴みきれていません…。
でも器用貧乏なのでなんとか乗り切ってます。
30代になった竹内の課題です。すぐ自分の物に落とし込めるような引き出しがたくさんほしいです。
ちなみに指揮者とはリアルタイムで斬りあいです。
その中でピタッと合うとめちゃくちゃ気持ちいい。
【今週の竹内】
今週末は「キャンディード」に出演します。
度々Vividに登場してます森川さんと同じ現場です。
合唱と数曲のソロを歌います。
役作りという意味では、ある意味合唱が一番大変かも。
個々が生きている必要もあり、群衆として同じ方向を向いている必要もあり。
場面によって全然違う人物を演じたり。
そこまで細かく決められないので、自由度が高い反面、引き出しの数が露呈します。
そしてシンプルに歌うのが大変。
頑張ります。