あんまり注目されない、でも面白い、本気出せば主役だってくっちゃうぜ!な名脇役たちを救済する夢のシリーズ☆
『名脇役シリーズ』第4弾はヴェルディ作曲《椿姫》!!
初演:1853年3月6日 ヴェネツィア
原作:デュマ・フィス「椿姫」
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
ヴェルディってどんな人?
→イタリアオペラの超超超代表的な作曲家です!今回取り上げる《椿姫》だけでなく、《アイーダ》など、とにかく有名な作品をたくさん残しています。
さてさて、では今回取り上げる《椿姫》とは?
→1850年ごろのパリ。高級娼婦ヴィオレッタは田舎出身のアルフレードと恋に落ちます。アルフレードの真摯な愛に心打たれ、逸楽の日々に背を向け、二人はパリの郊外でひっそりと暮らし始めます。しかしそこへアルフレードの父ジョルジョが現れ「息子と別れてほしい」とヴィオレッタに頼むのでした。一度道を踏み外した女は幸せを得ることはできない。ヴィオレッタはジョルジョの頼みを受け入れるのでした。しかし肺結核を患っていたヴィオレッタには死の影が近づき…
涙なしでは語れません!美しく悲しいお話です。
《椿姫》というタイトルですが、原題は「La traviata 道を踏み外した女」です。
なぜ「椿」なのでしょうか?台本にそれらしい説明は出でこないので、原作を探してみました。原作ではヴィオレッタはマルグリット、アルフレードはアルマンという名前です。一部抜粋します。
新作が上演されるたびに、きまって彼女の姿が見られたが、そういうときには、必ずと言ってもいいほどに、一階の桟敷の前には、三つの品がそろえられてあった。観劇眼鏡と、ボンボンの袋と、椿の花束が。
この椿の花は、月の二十五日のあいだは白で、あとの五日は紅だった。どんな理由でこんなふうに色をとり変えるのかだれにも分らなかった。わたしもただこう書くだけで、その理由は全然知らない。この椿の花のことは、彼女が一番よく通った劇場の常連や、彼女の愛人たちも、わたしと同じように気がついていた。
だれひとりとして、マルグリットが椿の花よりほかの花を持っているところを見かけたものはなかった。それで、彼女のお得意の花屋バルジョンのおかみさんの店で、とうとう、『椿姫』というあだなをつけられ、それがそのまま世間の通り名となってしまった。
[1950年,新潮社,デュマ・フィス,『椿姫』, 新庄嘉章訳,21頁より]
「椿」の存在は分かっていても、誰も「椿」の意味については分かっていないのですね。しかし彼女の職業のことを思うと月の25日は「今日は大丈夫」、残りの5日は「今日はお休み」というような意味合いがあったのかな?なんて想像できます。
さて、今回も相関図を見てみましょう。
今回注目したいのは、
フローラ
相関図ではヴィオレッタの友達と書いていますが、実際どんな人なのかというと、おそらくヴィオレッタと同業者。ヴィオレッタのように夜な夜な邸宅で豪華なパーティーを開き飲み明かす。オペラでもヴィオレッタとフローラは招待し合ったり、フローラ邸からヴィオレッタ邸にゲストを連れて大移動するなど、日常的に交流があるように読み取れます。
また、フローラはドビニー侯爵と愛人関係であり、ジプシーたちが「ドビニー侯爵の浮気」を占った時は嫉妬の色を表す様子も描かれています。
病気で幸薄そうなヴィオレッタに比べ、明るい印象のあるフローラですが、決してフローラはヴィオレッタと対象的な「幸せな女」というわけではなく、やはりヴィオレッタと同じ「道を踏み外した女」なのです。ドビニー侯爵とも永遠に「愛人」関係であり、特にこの時代であればなおさら、「ごく普通の幸せ」を得ることは許されません。また、酒を浴びるようにのみ、夜中騒いで過ごし、愛を売る仕事は決して健康を保てる仕事とは言えません。遅かれ早かれ、ヴィオレッタのような末路を辿ることは容易に想像ができます。
2幕後半から始まるフローラ邸の夜会も、華やかではありますが、やはりそこには「束の間」という儚さが見え隠れするのです。
ジョルジョのこんな言葉があります。
「貴女も今は美しいが、時がたてば…男は移り気なものです」
ジョルジョの言うように、フローラも年が美しさを奪い取った時、どこまでその身を保っていられるのでしょうか?
「椿」の花は枯れる時、花が丸ごと地面に落ち、朽ちてゆきます。まるで若く美しくして身を落とす彼女たちの運命を象徴しているかのようです。
原作にはフローラという名前の女性は登場しませんが、プリュダンスという元娼婦のマルグリットの取り巻きの女性が登場します。婦人帽子の店をやりながら、マルグリットのそばで色々世話を焼き、何かあればお金を要求します。マルグリットが床に臥して、お金を払えなくなると遠のいて行きました。そんな生き方をする娼婦もいます。色々な角度から彼女たちの思いを想像すると、また《椿姫》の印象も変わるのではないかと思います。
原作「椿姫」もデュマ・フィスの実話をもとに書いた素晴らしい作品です。ぜひ読んでみてください。
次回予告
→番外編!オペラのあるものにスポットライトを当てちゃいます!