オペラ。日本語では「歌劇」と呼称されますが、元々はラテン語で「仕事」の意味。華々しい舞台の上の世界は、劇場における氷山の一角でしかありません。「オペラのウラのウラ」では、VOTメンバー・竹内の経験等も踏まえながら、客席からは見えないたくさんの「仕事」を担う裏方の世界をご紹介していきます。
今回の主役は、前回ご紹介した「舞台監督」を補佐する「舞台監督補佐」たち。竹内も舞監補経験がありますが、携わった裏方業の中でもとても楽しくやりがいのあるものでした。
前回記事でもほんの少しだけ触れましたが、今回は「舞監補」の仕事にフォーカスを当てて、もう少し深く掘り下げていきます。
【舞台監督補佐ってどんなもの?】
「舞台監督補佐」、あるいは「舞台監督助手」は、その名の通り、舞台監督の補佐業務全般を行います。複数名が舞台監督の部下として動くことがほとんどで、それぞれがそれぞれの役割を担い、全体がスムーズかつ安全に進行するよう声を掛け合いながら作業します。主な仕事は搬入、仕込み、転換、キュー出し、小道具準備、稽古補助等々、舞台上と舞台袖全面に至ります。
ちなみに我々Vivid Opera Tokyoのホール公演では、舞監と舞監補1人の計2名で回してます。訪問演奏では裏方ゼロです。オールセルフサービス。
【舞監補の仕事①メモ&バミリ】
稽古場ではとにかくメモを取ります。入りハケする幕の位置、タイミング、人数、追加で必要になる小道具等…舞台を作り円滑に進行する上で必要な情報は全て書き取ります。これには演出助手の記事でご紹介した、楽譜の間に白紙を挟んだ「演出ノート」を使う場合もあります。
また、バミリも非常に重要な仕事です。稽古場でもバミリ、舞台上で最終的な配置が決まったらそれもバミリ。とにかく手数が多いです。
【舞監補の仕事②舞台裏の整理】
劇場入りした後も、安全で円滑な進行のため、舞台裏を整えておく必要があります。小道具置き場を設定し、小道具があるべきところにあるか常に確認し(これは我々出演者も必ず行います)、人や道具が通る通路が確保されているかを確認し、転換など大きなものが通る時にはその安全を確認します。
さらに、出演者がいるべき時にいるか、必要な小道具を持っているか、衣装スタッフと共に早替えブース(また別の項で説明するね)を作ったり、安全な待機スペースを用意したりetc…、チェックポイントかなり多めです。
【舞監補の仕事③キュー出し】
キュー=きっかけ出しにはいくつかの種類があります。
(1)指揮者キュー
特に開演直前、オーケストラピットにいる指揮者から幕の中の様子は全く見えません。このままでは、幕の中で不足の事態が発生しているのに勝手に音楽が始まってしまう=音楽が進んでるのに幕を上げられない、という最悪の事故に発展しかねません。
これを防ぐために、指揮者の横には「キューランプ」というものが設置されています。これは舞台袖からつながっていて、ボタン操作で付けたり消したりすることができます。このキューランプを介して、「準備完了、音出しOK」という合図を舞台監督または舞監補の操作で実行し、ピット内と協力しあってより確実な公演を作ります。
(2)スタッフ間でのキュー
舞監補を複数のスタッフが務める場合、彼らは無線…「インカム」を着け、相互に連絡を取り合います。特に”きっかけのキュー”は特に大切です。転換など、舞監補が一斉に動き出す必要がある場合、舞台監督が転換開始のキューを出します(これは舞台監督の記事で書くべきだったかも?)。
別団体「リタ」の公演の字幕キュー。番号で管理されます。
それ以外のキュー…例えば照明キューを照明部ではなく舞監補が行う場合、照明チームのインカムを装着し、楽譜を追いながらキューを出します。なお、小さな公演の場合、照明や字幕のキューは稽古ピアニストが担当することもあります。
(3)演者へのキュー
出演者が舞台上に出る際、普通は自分の呼吸でベストなタイミングを探って入りますが、舞監補がきっかけを教える場合もあります。また、転換直後の舞台入りは、舞台上の安全を確認したうえで、各袖に待機している舞監補から入場の許可が下ります。これもある種のキューと言えます。
なお、海外の歌劇場では演出助手が受け持つこともあるようです。酒に酔った僕の師匠がしきりに主張していたのをよく覚えています。
【舞監補の仕事④呼び出し】
出演者的に非常に有難いのがこれ。館内放送設備を用いて、呼び出しのアナウンスをします。直接舞台づくりに関わる仕事ではありませんが、楽屋待機が多いとき、そして楽屋で舞台の進行を確認することが出来ないときに威力を発揮します。
ただし、呼んでくれるからといって油断しすぎると出番を逃しかねません。これを「出トチ」とか言いますが、過去に1度だけ出トチを見たことがあります…。僕じゃないですよ、うん。
【まさしくウラのウラ!ありがとう舞監補さんたち】
このように、舞監補さんたちは我々にとって身近で頼りがいのある存在です。若手が多くて話しやすいのもあるのかな?出演者のそばで守り導いてくれる舞監補のみなさんのおかげで、安心して舞台に出ていけます。その献身ぶりはいつも目に入っています。いつもありがとう、また劇場で会えますように…。