オペラ。日本語では「歌劇」と呼称されますが、元々はラテン語で「仕事」の意味。華々しい舞台の上の世界は、劇場における氷山の一角でしかありません。「オペラのウラのウラ」では、VOTメンバー・竹内の経験等も踏まえながら、客席からは見えないどころか、誰にも見えない「音」の話をしていく回です!
内容はずばり「残響」について!
お風呂に入ると、エコーが心地よくてつい鼻歌…なんてきっと誰でもありますよね。
ありますよね?(圧)
音楽ホールでは最適な環境で音を楽しめるよう、残響時間や響き方が計算されて設計されます。
では、どれくらいの残響があると思いますか?
今回は、その辺の話を、国内外の歌劇場や竹内自身の経験も含めて徒然なるままに書いていきます。
それでは
Andiamo!
【そもそも残響時間ってなんなの?】
「出した音が残る時間」=「残響時間」なのはわかると思いますが、でも小さい音ならすぐ消えちゃうし、大きい音出せばそれだけ長く残りますよね。しかもいつ消えたのか判断するのがとても難しいし、場合によっては完全な無音化は無理。これらがバラバラだと比較にならないので、基準が必要です。
で、「60デシベル減衰するのにかかる時間=残響時間」という定義が存在します。
ちなみにデシベル(db)とは音圧レベルのことで、オペラ歌手だとだいたい100db前後くらいらしいです。
これがどれくらいかというと、60dbくらいで普通の会話くらい、パチンコ店内で80dbくらい、120dbが飛行機のエンジンくらい。
え、こんなにうるさいの?
ごめんねご近所さん。そりゃ「楽器演奏可能(声楽は除く)」という物件もでてきますわ。
なんかこういう機材で測定するらしいよ。
一口に残響といっても、いろんな要素があるようなので、詳しく知りたい人はGoogle先生に聞いてね!
【世界の歌劇場の残響時間を比較!】
こちらのサイト様を参考にしました。数年前で更新が止まってますが、超オペラ好きでヨーロッパまで観に行くくらいのオペラ鑑賞ガチ勢の方のブログです。
数字は満席時/空席時の残響時間です。人の体って音をよく吸うので、満席時では大抵残響時間が減ります。増えてるところはどういう仕組みなんですかね?不思議。
スカラ座(ミラノ)…1.24秒/1.14秒
メトロポリタン歌劇場(NY)…1.47秒/1.62秒
ウィーン国立歌劇場…1.36秒/1.43秒
オペラ座(パリ)…1.18秒/1.16秒
ロイヤルオペラハウス(ロンドン)…1.20秒/???
ベルリンドイツオーパー…1.36秒/1.60秒
バイロイト祝祭歌劇場…1.55秒/???
バイエルン州立歌劇場(ミュンヘン)
新国立劇場…1.49秒/1.70秒
東京文化会館…1.51秒/1.75秒
日生劇場…1.11秒/1.06秒
よこすか芸術劇場(反響板未使用時)…1.70秒/???
テアトロジーリオショウワ…1.40秒/???
※オペラ劇場じゃないけど参考までに
サントリーホール…2.10秒/???
みなとみらいホール(大)…2.10秒/???
ミューザ川崎シンフォニーホール…2.00秒/???
※※VOTで使ったホールのデータも調べましたが公式情報が出てこず…。たぶん1秒ないくらいのところがほとんど。音楽系小ホールも計測して記載した方がいいと思うんですが。
【で、オペラにちょうどいい残響時間ってどれくらい?】
上記の情報を基に考えると、だいたい1秒台半ばくらいがちょうどいいと言えると思います。
竹内たちが学生時代に試験などで使った「府中の森芸術劇場ウィーンホール」は、満席時でも2秒前後、空席時に2.67秒まで響きます。
「お風呂で歌うの気持ちいい理論」で言うなら響く方がいいと思ってしまいますが、経験上、響きすぎというのは歌的にかなり問題あると思っています。
というのも、響きすぎると言葉が残響と重なって何を言っているのか分からなくなってしまいます。歌唱だけが持つ最強の武器である言葉が消えてしまうのは本当にもったいない。日本語でも聴き取れなくなるのに、早口の外国語ではいよいよ何言ってるか分からない。前述の「ウィーンホール」は正直その典型で、あまりいい思い出はありません…。
逆にこういう”響きすぎるホール”はオーケストラやピアノリサイタルなどの器楽にはとてもいいと思います。圧倒的な重厚感とか、繊細な音のタッチを楽しめる素晴らしいホールです。サントリーホールやみなとみらいも声楽作品よりは器楽向けっぽいし、実際そういうコンサートが圧倒的に多いですよね。せいぜい「声楽付きオーケストラ作品(第九など)?
ウィーンホールも、チェロアンサンブルのコンサートを聴いたときは最高でした。
【響くといえば教会!どれくらい響くの?】
以前、アマチュア合唱団のヨーロッパ演奏旅行に同伴した際、ミュンヘン旧市街にある「フラウエン教会」という大聖堂でソプラノとオルガンのコンサートを拝聴しました。ものすごい残響でしたが、サクッと調べたところ「簡易計測で15秒」という情報が。ザルツブルグの大聖堂や教会で歌う機会がありましたが、やはり体感で10秒近い残響があったように感じました。
市庁舎展望台から見たフラウエン(聖母)教会。
赤い屋根が旧市街地のシンボル
これは①石造りであること、②ドーム状の高い天井で反響を続けること、③複雑な装飾が複雑な反響を促進する、④日本と比較して非常に乾燥した気候、とかいろんな要因があるようですが、これくらい響く教会でパイプオルガンを鳴らすと、倍音がビンビン鳴り響いて、神様の声みたいな音がするんですよね。すごくすごい。
これくらい響くと、日本人が普通にしゃべると響かない。しっかりとのどを開き、鼻腔に響かせないと会話にならないんです。生まれた時からこういう環境で育ってたら、そりゃ歌も上手くなるよね。
話を戻します
前述の通り、実音だけでなく倍音も反響し増幅してくれるので、声楽作品だとグレゴリオ聖歌のような単旋律の音楽にはとてもマッチしますが、やはりオペラや普通の声楽作品は響きすぎて無理そう。
まぁ教会でボエームとかトゥーランドットとかやりましたけどね!!
【響きすぎも響かなさすぎも嫌である】
なんか書いてたらめっちゃ長くなっちゃいましたが。
つまり残響時間と歌いやすさ/聞きやすさ=声楽向きかどうかはだいたい以下のような感じです。
≪残響時間と印象≫
~1秒 …響かなさすぎて歌いづらい。聞いてても残響の無いパサパサした音に。音響機材を用いる分には問題なし?
1秒~1.6秒くらい …歌劇場のスタンダード。歌いやすく、言葉も聞きやすいちょうどよさ
1.6秒~2.5秒くらい …ちょっと響きすぎ。言葉聞きづらい。オケ向き
3秒~ …教会レベル。グレゴリオ聖歌とかオルガンとか教会音楽向き
あくまでも数字上の話だけどね、劇場の大きさ、屋根の高さ、聞く場所、何より歌手の力量によってもかなり変わってくると思います。
さぁ次は何にしようかな!2週間あっという間だぞ!
書きかけの「ホールの仕組みシリーズ」の続きになるかな。迷うなぁ。
【ついでに近況報告】
これがアップされる2日前、徳島で本番をやってきました。「道化師」という、およそVOTでは取り扱わないであろう作品でした。
前週半ばにお話をいただき、急遽飛ぶという緊急案件でしたが、やったことがある演目&大好きな徳島ということで、リラックスして臨めました。
これもまた大切な経験。依頼をくださった方、現地でお世話になった皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。
また来年もお呼びいただけるように、一つ一つの本番、楽曲、音を大切に過ごしたい所存です。
頑張ります!