オペラ。日本語では「歌劇」と呼称されますが、元々はラテン語で「仕事」の意味。華々しい舞台の上の世界は、劇場における氷山の一角でしかありません。「オペラのウラのウラ」では、VOTメンバー・竹内の経験等も踏まえながら、客席からは見えないたくさんの「仕事」を担う裏方の世界をご紹介していきます。
今回は、前回ご紹介した演出家のアシスタント、その名も「演出助手」。チラシに名前がかかることの少ないスタッフですが、オペラ制作において非常に大事な役職です。我々歌手のパフォーマンスにも大きく影響する「演出助手」、その仕事をご紹介します。
【演出助手の仕事ってどんなもの?】
演出「助手」とあるように、基本的には演出家のアシスタント業務がメインです。しかし単に「助手」の一言で済ませられるほど単純ではありません。客席はもちろん、歌手からも見えない仕事がたくさんあります。仕事は大きく分けて4つ。「スケジュール調整」「香盤表作成」「稽古補助」「他セクションとの交渉」です。もちろん演目の勉強も演出家並みに必要ですが、ここでは省略します。
演出助手を務める人には2種類の人がいます。一つは演出家になるための下積みとして助手を務める人、そして「プロの演出助手」になりたい、あるいは目指してプロの助手になった人です。それぞれ、さらに下積みとして舞台スタッフ業を経る場合もあります。
【演出助手の仕事①稽古スケジュール調整】
オペラの出演者は、歌手、ダンサー、助演俳優を含めると1人~100名以上まで様々。そしてそれぞれが複数の現場や仕事を抱えているため、毎回全員が出席することは非常に困難です。加えて常に全員が出演するわけでもなく、少人数で稽古が成り立つ場面もあります。
それらを勘案し、稽古する場面の調整、スケジューリング、それに出席できない出演者への交渉も重要な仕事です。(出席交渉は「制作」と呼ばれる事務方が行う場合もあります。)
【演出助手の仕事②香盤表作成】
「香盤表」とは、出演者の出番を記した、いわば出番表です。どの場面で誰が出演しているのかが一目で分かるようになっているため、準備段階から本番まで非常に重要な資料となります。
前述の稽古調整もこの香盤表に則って行います。本番中、出番のない出演者は楽屋待機となりますが、出番が近づくと楽屋放送などでスタンバイを通知ます。この「スタンバイコール」にも用いられるため、舞台スタッフにとっても必要不可欠です。
また、「衣装香盤表」という「いつ・誰が・どんな衣装を着るか」を記した、衣装スタッフのための香盤表も作成します。オペラには、複数の役を兼ねる必要がある合唱や、時間の経過などによって着替えが必要な役も多く存在します。
【演出助手の仕事③稽古補助】
我々歌手ら出演者にとって、数少ない目に見える演出助手の仕事です。演出家と共に稽古に立ち合い、稽古の進行をしながら演出家の指示をメモし、舞台上が上手くいくよう、立ち位置や人の流れを整えていきます(業界用語で交通整理などと言います)。
演出助手は、「演出ノート」と呼ばれる、楽譜と白紙が交互に製本された特殊なものを使います。演出家も、人によってはこれを使いますが、人それぞれの流儀があるようです。この演出ノートに演出家の指示、人の並び順などを書き込んでいき、それを参照しながら稽古を進行していきます。
劇場入り後は前回の演出家の記事で触れたとおり、演出家の横に座りダメ書きをしていきます。また、空き時間や終了後の時間を利用し、出演者に個別のダメ出しも行います。
【演出助手の仕事④他セクションとの調整】
意外とこれが一番重要な仕事かもしれません。稽古での歌手の様子を見て音楽稽古の追加を音楽スタッフと検討したり、衣装や小道具の確認、演出家の指示を舞台監督以下演出部のスタッフに伝達、あるいはその逆も。いわば中間管理職ですね。一見地味だけど、いてくれないと回らなくなる大切な役職です。
【演出助手の皆さん、いつもありがとう】
実は竹内も一度だけ、演出助手を務めたことがあります。ちょっと特殊な現場で、なんとなく見様見真似でやったのですが、満足のいく仕事は全くできませんでした。演出家に怒られ、舞台監督に怒られ、出演者には良くしていただきましたがきっと物凄いストレスを与えてしまったと思います。悔しい、という感情は正直全く湧かず、「こんな大変な仕事は二度とやりたくない」としか思えませんでした(笑)
逆に、演出助手が優秀だと、私たち歌手はストレスを感じず、自分の仕事に集中できます。これは実際にたくさん経験しました。プロってすごいです。もっと多くの人が演出助手をめざすようになったらいいのに…と常々思います。