オペラ。日本語では「歌劇」と呼称されますが、元々はラテン語で「仕事」の意味。華々しい舞台の上の世界は、劇場における氷山の一角でしかありません。「オペラのウラのウラ」では、VOTメンバー・竹内の経験等も踏まえながら、客席からは見えないたくさんの「仕事」を担う裏方の世界をご紹介して
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「ホールの豆知識」シリーズ第二回です!
今回は舞台人なら絶対に知らなければならない、劇場の仕組みなどに関する”専門用語的な名前”を「基礎編」としてまとめてみました。
同業者ならすべて知っていて当然。「観る専」のみなさんにはあまり馴染みのない言葉もあるかもしれませんが、知ってるだけで「おっ、こいつ知ってるなぁ!」と思わせることができることもあったりなかったり?
【舞台の基礎の基礎!①上手下手】
(基礎中の基礎です。知ってる人はどうぞ読み飛ばして下さい。)
オペラや演劇、バレエ、あるいはバンドが使うようなライブハウスでも共通しているのが「上手」「下手」という呼び方。「じょうず」「へた」...ではなく、「かみて」「しもて」と呼びます。
新国立劇場「魔笛」より
これらは舞台の左右を示したもので、客席から舞台に向かって右手を「上手」、左手を「下手」と呼びます。客席側で見てる演出家が「もっと右!」と言ったときに、舞台から見て右に動いたりしたらややこしいですもんね。裏方さんでも、舞台に不慣れな新人さんで「右左」で言って上司に叱られてる様子をたまーに見かけます。
実はこれ、日本の伝統的な舞台芸術である歌舞伎からの転用なんです。殿様とか代官様とか、偉い人が舞台向かって右から登場し右手に着座することから「上手」、庶民や身分の低い人たちが左手から登場することから「下手」と呼んでいたそうです。飲み会マナーとかで話題になる「上座」「下座」と同じですね!
英語では「上手」を「stage left」、下手を「stage right」と呼びます。舞台から見て右左、と統一されてるんですね。外国人キャストがいるオペラ公演の呼び出しアナウンスでも「left」とか「right」とかよく聞きますが、毎度考えないと分からなくなります。演出家は見てる向きと逆の左右を言わなければならないので大変ですね!
ちなみにイタリアでは客席から見て右左と表現するそうです。英語圏の人がイタリアの劇場に出演するときは超大変ですね!
【舞台の基礎の基礎!②面奥】
上手下手と同じように、舞台の前後についても名前がついてます。演出家から見て前後なのか、出演者から見て前後なのかわからなくなっちゃいますからね、スムーズに稽古を進めるにはこういう慣用句的な決まりごとが必要なんです。
新国立劇場「魔笛」より
舞台の客席側、出演者が客席を見て立った時に前側を「舞台面(ブタイツラ)」または「面(ツラ)」、後ろ側を「舞台奥」または単に「奥」と呼びます。大道具の回で少し触れた「八百屋舞台」などでは「奥」に行くにつれて床面が高くなり、存在感が増します。「トゥーランドット」の皇帝役など極端に位の高い人は舞台奥の高いところに座することが多いのはそのためです。
【舞台の基礎の基礎③劇場の”額縁”】
日本の多くの大ホールには、こんな形の↓↓↓構造があります。
これは「プロセニアム・アーチ」と呼ばれていて、客席側の「現実世界」と舞台上の「虚構の世界」を区切る「額縁」のような役割を果たしています。
一方で、室内楽やオーケストラのコンサートに特化したシューボックス型/ヴィンヤード型のホールでは、この構造はありません。なぜって?現実と虚構を区切る必要がないからかな?
演劇とかやる小劇場や芝居小屋にもないことが多いですね。これがないことで逆に没入感を生み出すことも。我々Vivid Opera Tokyoもこの効果を狙ってたりします。
【オーケストラピット】
通称「オケピ」。舞台面(ツラ)と客席の間を150cm~200cmほど下降させ、オーケストラの演奏スペースとします。
昨今の状況下では、「オケピ内が密になる」ということで、オーケストラを舞台上に乗せてセミステージ形式で上演したり、ピットの床面を通常より高めに設定して換気しやすくしたり(その分音量が大きくなるので、聞こえ方には少なからず影響が出ます)と、各主催者様も苦慮している様子。
ワーグナーが作ったことで有名な「バイロイト祝祭歌劇場」は、このオーケストラピットの構造が特殊。通常舞台の前に組むオケピを舞台の下側に造り、客席側は指揮者と弦楽器のためにほんの少し空いてるだけ。この構造によって、ワーグナーの分厚く大音量なオーケストラの中でも歌手の声が客席に届く仕組みになっています。…が、その中で弾く奏者的には賛否両論だそうです。確かに弾きづらそうな構造よね。
【音楽家でも意外と知らない!?「金魚鉢」】
大きなオペラ公演では、副指揮者が「指揮見づらかったら僕が金魚鉢入るので!」とか声をかけたりします。別に彼は金魚になりたいわけではないんです。これはどちらかというと業界用語に近いですが、劇場には「調光室」や「音響室」など、照明や音響の操作を行う部屋があります。これらは客席側の最後尾にあることが多く、舞台を直接視認できるよう防音のガラス張りになっています。
そう、「ガラス張りの隔離スペース」=「金魚鉢」でこう呼ばれています。
舞台から遠く暗いため、ここに入る副指揮者は赤いペンライトを持ち、指揮者を映したモニター、通称”指揮モニ”を見ながらテンポを示してくれます。大人数が舞台上にいるとき、どうしてもオーケストラピット内の指揮者が見えないこともありますが、そういう時にこれがあると非常に助かります。
なので、オペラ畑の人以外はあまり知らない言葉かもしれません。
【劇場に行って「これVividのページで見たやつだ!」ってなろう!】
これらの言葉、別に知らなくても観るだけなら困りませんが、出演者に「下手の舞台装置凄かったですね!!」とか「上手の高いところにいましたよね?」とか表現することで、舞台関係者なら一発で伝わる上に「おっ、この人分かってるな!」とかなるのでおすすめです。
昨今の情勢から少しずつ公演機会も戻ってきています。特に大きな劇場は換気性能も高く、制作側もめちゃくちゃ気を使って対策している上に、席の間引き販売で広々と快適にオペラ鑑賞するチャンスでもあります!安全かつ快適に、生音/生声の芸術を堪能してはいかが?
※観劇の判断は自己責任にてお願いします。